発熱の原因・対処法
監修:医療法人社団宏久会 泉岡医院 院長 泉岡 利於 先生
一般社団法人大阪府内科医会 副会長
私たち人間の体温は、脳の視床下部(自律神経の中枢)にある体温調節中枢の働きで、ほぼ一定の範囲(=平熱)に保たれています。標準となる温度が設定されていて、その温度と実際の体温とが常に一致するように産熱、放熱の命令を発しているのです。この平熱より高い温度になった状態を発熱といいます。
発熱のメカニズム
ウイルスや細菌が体内に侵入すると、体は免疫力をフルに使ってこれらを退治しようとしますが、その免疫力を高めるには平熱よりも高い温度(体温)が必要になります。そこで、普段は平熱を保つ働きをしている視床下部の温熱中枢が、温度設定を上げることで、免疫細胞が活性化する状況を作り出します。つまり、発熱は免疫力を高めるための生体防御反応なのです。これが発熱のメカニズムです。体温の変化によって、発熱は前兆期・上昇期・ピーク期・下降期に分けられます。
発熱の対処法
発熱した時、無理に体温を下げようとすると、免疫力の活性化をさまたげてしまい、健康な体の回復のためには逆効果になってしまいます。感染による発熱は、熱の出方を観察して、前兆期 ・ 上昇期 ・ ピーク期 ・ 下降期といった状況に合わせて適切に対処することが大切です。ただし、微熱が続く場合は、重大な疾患が隠れているおそれもあるので、注意が必要です。また、発熱以外の症状がある場合、早めに医師の診断を受けましょう。
前兆期
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体から体温を逃がさない
悪寒や震えによって、体が体温を上げようとしている時です。体温を逃がさないよう保温性の高いウールなどの寝巻きや、 寝具をしっかりかけるとともに、室温も高めにして休みましょう。
上昇期~ピーク期
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ビタミンCの摂取
発熱によって免疫細胞の働きが活発になっています。免疫細胞が働くと、体内のビタミンCが通常の5倍近く失われます。レモネードやホットレモンといったホットドリンクでビタミンCを補給してください。胃腸の機能が低下しているので、ドリンクの方が摂取しやすいでしょう。
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解熱薬の服用に注意
解熱薬は温熱中枢に働きかけ、設定温度を下げさせる効果があるため、確実に体温は下がり、体も楽になります。しかし同時に免疫体の活動に必要な温度が提供できず、ウイルスや細菌退治が不十分となり、治癒まで時間がかかったり、ぶり返したりするケースがあります。このタイミングでの解熱薬の服用はできるだけ避けましょう。ただし、高熱の時は体力も奪われるため、39度以上の熱が続く場合や体力の消耗が激しい時や発熱によって必要な水分が十分摂取できない時は服用してもよいでしょう。また、本来ならしっかり熱を出して菌を退治し、そのあと体力が回復するまでゆっくり休むのが理想ですが、仕事などで休めない場合は、早めに解熱薬を使って熱を下げ、体力を保つのも一つの方法です。
下降期
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汗を拭き取り、こまめに着替える
大量に汗をかくので、タオルなどで汗を拭き取り、こまめに着替えをします。衣類やシーツは汗を吸いやすいコットンなどの素材を使うとよいでしょう。この時、汗で濡れた衣類を長時間身に付けていると、体温が平熱まで下がったあとも体が冷え、新たなウイルスや細菌の侵入につながるので気をつけましょう。体力が落ちているので、特に用心が必要です。
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水分を補給する
汗で体の水分が奪われるので、こまめに補給しましょう。発汗だけなら水でも十分ですが、おう吐や下痢をともなう時はミネラルも流出するので、積極的にミネラルドリンクを摂ります。発熱しているのが子どもの場合、大人用のスポーツドリンク類を飲ませると、濃度が濃すぎてかえって脱水症状を起こすことがあるので、子ども専用のものを飲ませましょう。なお大人の場合も、カフェインを含む飲料は利尿効果があるので避けた方がよいでしょう。
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体を冷やして解熱を補助
温熱中枢が設定した平熱にできるだけ早く戻るよう、体を冷やしましょう。おでこよりも、動脈の通っている脇や首筋、足への血管が通っている鼠経部(太もものつけ根)を冷やした方が効果的です。
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解熱薬を服用する
できるだけ早く平熱に戻すために、解熱薬を使うのも一つの方法です。この段階なら、温熱中枢の設定温度も平熱になっているので、免疫細胞の活動を阻止してしまう心配もありません。
解熱後
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できる限り安静に
細菌やウイルスとの戦いによって体力が消耗している時なので、できるだけゆっくり休養しましょう。
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食事は消化のよいものを
胃の機能が低下しているため、食事は消化のよいものを選びましょう。
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3日間は、スポーツ、飲酒は避ける
熱が下がってから最低3日は、体育や部活動などのスポーツや体力を使う仕事、無理な残業、飲酒は避けましょう。万が一、ウイルス性心筋炎を起こしてしまった場合、命にかかわるケースもあります。